東京地方裁判所 平成5年(行ウ)291号 判決 1995年1月23日
原告
武蔵野開発株式会社
右代表者代表取締役
後迫厳
右訴訟代理人弁護士
佐藤昇
被告
府中市長 吉野和男
右訴訟代理人弁護士
小沢俊夫
理由
一 請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
そこで、本件土地が、原告主張のように、法附則三一条の五第二項で準用される法六〇三条の二第一項第一号による特別土地保有税の納税義務の免除対象土地となるかどうかについて判断するに、特別土地保有税は、土地保有に伴う費用の増大を通じて投機的な土地取引を抑制し、併せて投機的に保有されている土地の放出を促すことを目的として設けられたものであるが、右のような特別土地保有税の制度趣旨に照らせば、既に社会通念上相当程度の水準に達した利用がなされ、最終的な需要に供されいる土地についてまで、同税の負担を課すことは適当でないことから、法六〇三条の二第一項第一号は、「その構造、利用状況等が恒久的な利用に供される建物」の敷地の用に供する土地を特別土地保有税の免除対象土地とすることをしたうえ、そのような建物に該当するかどうかの認定基準を政令で定めることとし、これを受けて法施行令五四条の四七第一項は、「その構造及び工法からみて仮設のものでないこと」(一号)、「その利用が相当の期間にわたると認められること」(二号)との二つの基準を定めているところ、本件においては、右二号基準に適合するかどうかが争われているので(本件建物が一号基準に適合することについては、当事者間に争いがない。)、以下、この点について検討する。
二 ところで、右各基準は、いずれも「恒久的な利用に供される建物」(法六〇三条の二第一項一号)に係る基準として設けられたものであるが、一号基準が建物等の構造など客観的、物理的な状態に着目したものであるのに対し、二号基準は、建物等の具体的な利用状態に着目して、当該土地が建物等の敷地として最終的な需要に供されているかどうかを判定しようとするものであるから、二号基準にいう「その利用が相当の期間にわたる」というためには、建物等が単に相当の期間利用可能であるというだけではなく、その具体的な用途はともかくとして、相当程度の期間にわたり継続的に建物等としての具体的な利用がされているという状態にあることが必要であると解すべきであり、その認定に当たっては、所有者の利用意思、当該建物等の具体的な利用状況等基準日(特別土地保有税を申告納付すべき日の属する年の一月一日)の前後における事実を総合的に考慮してこれを行うべきであるといわなければならない(最高裁判所昭和六三年四月二一日第一小法廷判決・裁判集民事一五四号三七頁参照)。
原告は、右「相当の期間にわたる」建物の利用とは、当該建物がその性質上相当の期間にわたる利用に適するものであることを意味するものである旨主張するが、建物がその性質上相当の期間にわたる利用に適するということは、結局、建物自体の物理的な利用可能性を意味するものにほかならず、一号基準の「その構造及び工法からみて仮設のものでないこと」との基準と重複することになり、二号基準の解釈として妥当でないことは明らかである。原告の右主張は、要するに、恒久的に利用可能な性質の建物が存在すれば、その敷地は、建物の利用状況の如何に関わりなく常に建物の敷地として最終的な需要に供されているとみるべきであるとの主張に帰するものであって、法六〇三条の二第一項第一号及び二号基準の解釈論として到底採用することができない。
三 右のような観点から、本件建物が二号基準に適合するかどうかについてみるに、〔証拠略〕以下の事実が認められる。
1 本件建物は、原告が購入するまでは自動車修理工場等として利用されていたが、原告は、本件建物を取り壊し本件土地上にホテル等を建てたうえ土地建物を転売する意図の下に本件土地建物を取得したものであって、本件建物を利用することは本来考えていなかった。
2 ところが、本件土地建物を取得後、景気が後退したことから、原告は、平成三年八月か九月ころホテル建築等の計画を止め、本件土地建物をそのまま転売することにし、本件土地建物の売却のチラシ広告を頒布するなどして転売先を求めたが、なかなか買受人が見付からなかった。
その後、原告は、柳沢興産との間で、平成四年一〇月二〇日付け土地付建物賃貸借契約書(甲第九号証)を作成し、本件建物を「倉庫及び作業所兼駐車場」として賃貸することとしたが、柳沢興産は、不動産の売買を業とし、原告の下請会社のような立場にある会社であって、会社としては本件建物を自ら使用する必要もその意思もなく、専ら実際に使用する賃借人を探して転貸することが当初から予定されていたものであり、右賃貸の実質は、いわば原告が柳沢興産に本件建物の賃貸業務を代行させるためのものであった。
しかし、柳沢興産は、本件建物の賃借人を見付けることができず、ようやく平成五年九月一日富山建設に対し「建設資材置場及び駐車場」として転貸することとなるまで、本件建物は利用されたいまま放置され、結局、本件建物は、原告がこれを取得した平成二年七月から右平成五年九月までの約三年余の間、誰にも全く使用されない状態が続いた。
なお、原告は、本件土地建物を取得後、本件土地上に原告の関連会社である武蔵野ハウジング株式会社の「管理地 武蔵野ハウジング(株)」と書かれた看板を立てていたが、柳沢興産に本件建物を賃貸した後も、本件土地建物の売却のための宣伝になると考え、そのまま立て続けていた。
3 被告の係官は、原告から免除の申請があった後、本件建物の利用状況につき調査を行うこととし、平成五年八月ころまでの間に、五回にわたり本件建物を訪れて現地調査を行ったが、同年六月八日の調査時における本件作業所の状況は、扉が壊れ、二か所の窓ガラスが破損し、内部に破損したガラス、雑誌等が散乱している状態であり、また、本件倉庫の外壁には穴が開いたままとなっているところがあるうえ、本件建物の内部も作業や清掃が行われた形跡はなく、本件建物の周辺土地は除草がされていない状態で古タイヤや廃材が放置されていた。また、本件土地上には、依然として武蔵野ハウジング株式会社の管理地であることを示す前記看板が立てられていたが、本件土地の隣接地で砂利採集等の作業を行っていた古川某は、被告の係官に対し、本件土地は原告が取得した後は利用されておらず、時々暴走族のたまり場のようになっている旨述べた。
4 被告の係官は、原告が本件建物を柳沢興産に賃貸している旨申し立てていたことから、平成五年六月二三日、柳沢興産に本件建物の利用状況を電話で尋ねたところ、柳沢興産の従業員は、同年五月中旬まで使用していたと述べたが、翌二四日に使用の詳細を把握すべく再び電話したところ、今度は、柳沢興産自体は本件建物を直接使用したことはなく、土地の半分を永光建設に貸し、残りの半分は近々他に貸す予定であると述べた。
その後、被告の係官が本件建物に臨場した際、本件作業所内に、永光建設と三浦組の工事用の看板が一枚ずつ立てかけてあったため、被告の係官はこれらの会社に電話で本件建物の利用状況につき尋ねたが、いずれの会社からも、本件建物を賃借したことはないとの回答があった。
5 なお、本件決定後の平成五年八月二日、被告の係官が本件建物の利用状況を調査したところ、武蔵野ハウジング株式会社の立看板は撤去されて本件建物の中に置かれていたが、その他は、同年六月八日の調査時の状況と変わりはなく、本件作業所の扉、窓ガラス、本件倉庫の外壁の破損は修理されずに放置され、内部には相変わらず雑誌等が散乱していた。
以上のとおり認められ、原告代表者本人尋問の結果中、右認定に反する部分はたやすく措信することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
四 右認定したところからすれば、本件建物は、原告が取得するまで自動車修理工場等として利用されていたが、原告の取得後は、本件基準日はもとより本件決定までの約三年もの長期にわたって全く使用されておらず、しかも、その間、特段の整備、修繕等の措置もとられないまま、いわば放置された状態となっていたものであり、原告としては、ホテル等の建築計画が頓挫した後は、基本的には本件土地建物をそのまま転売することを意図していたものであって、柳沢興産に賃貸した後も、依然として右転売の意思を失ったわけではなかったということができる。
このように、原告が、本件土地建物を転売したいとの意図の下に、三年もの長期にわたって、本件建物を実際の使用に供することなく(原告の柳沢興産に対する本件建物の賃貸は、柳沢興産による実際の使用を目的とするものでなく、実質的には原告の賃貸業務の代行ともいうべきものであることは、前記のとおりであるから、右賃貸をもって本件建物が実際の使用に供されているということはできない。)、その維持管理も行っていなかったなどの事情からすれば、本件基準日前後における本件建物の未利用の状態は、たまたま一時的に利用が停止されていたに過ぎないものとみることはできず、本件建物は、「その利用が相当の期間にわたる」との二号基準に適合していないことが明らかである。
五 以上のとおり、本件基準日において、本件建物が二号基準に適合しているとは認められないから、その余の点につき判断するまでもなく、本件土地は特別土地保有税の免除対象土地に該当するということはできず、本件決定に原告主張の違法はなく、本件決定は適法である。
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条及び民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 橋詰均 武田美和子)